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こうじょうしんぶん

工場新聞

徳永 直

「新潮」1932(昭和7)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,771 字 · 16 页

青空文庫

鼻と、口を手拭でしっかと結えてもムーンと鼻の穴から、頭へ突きぬけるような臭気が、噎せるようだった。馴れても同じだった。

「ちかごろは下級品一方だね」

『はぎ』『なでしこ』そんなのが多かった。

バサ、バサ……。タツは流しこみ、だった。肥後葉の十一等なんていう渋団扇みたいのや、朝鮮葉の青黒い、しかも「土葉」なぞは、キーンと眼までしみて、まったく、泣くツラさだった。

「きッと不景気のせいなんだよ」

隣の六ノ機械の『揃え』で、トシがおせいの方へ云ってた。

「そうかもしんない、あたいんちのおやじも、『はぎ』から『なでしこ』になっちゃったよ」

ガラっ八のおせいは、あけすけだ。

「どうせ売れないんなら、いい原料つかァいいじゃないかね」

「そうだね、指宿の一等なんてのを、菊の花の肥料にするならねぇ」

煙草葉が残ると、年度末には、何日もかかって、焼かれた。そのいくらかを搬んできて、職員達は花壇の肥料にした。局内の菊花壇は、毎年美事な花を咲かせるのを彼女達は知っていた。

「羽鳥君」

うしろから、タツの肩をたたいて、『書記』の松本がのぞきこんだ。

「あのゥ、今晩、来られないか?」

黒い工手服を着た、書記の松本は、神経質な大きな眼玉、しゃくれた長い顎をもった青年だった。