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ほ
帆
宮本 百合子
「文芸春秋」1927(昭和2)年10月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,973 字 · 25 页
――大分こなせて来ました」
――煙草に火をつけながら、尾世川はハガキを再び手にとり上げた。
「――湯島天神にこんなところがあるのかな」
「なんです?」
風呂敷を結びながら、藍子が何心なく訊きかえした。
「いや、――到頭来たんです」
「へえ」
覚えずあげた藍子の顔と尾世川の顔とが正面に向き合ったが、二人とも笑うどころか、藍子は心配そうに、
「どこにいるのです? 湯島ですか」
と訊きかえした。
「見晴し亭内としてある――そんな家もあったかしらん」
ハガキの文句はただ是非来てくれというばかりで、詳しい事情はちっとも分らない。藍子は尾世川に渡されたそのハガキを机の上へ戻した。
「今でようございましたね。朝のうちにでも来ていたら、さっきの男に自然に話せなかったろうから」
「そうです、そうです。……然し何故こんな真似したんだか、どうも……」
「判って見れば放っても置けまいが――」
藍子はすっぱり彼女らしい調子で、
「どうなさいます?」
と訊いた。
「さあ……」
「あなたの心持で、責任持ってやらなけりゃいけないものがおありんなるんですか」
「いえ、そんなものはありゃしない」
「だって……」
「いえ、それは全くです。