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ゆうれい

幽霊

江戸川 乱歩

「新青年」博文館、1925(大正14)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,972 字 · 24 页

青空文庫

平田氏はどうして演説を終ったか、殆ど無我夢中であった。彼はヒョイとおじぎをしてテーブルの側を離れると、人々が怪むのも構わず、部屋の出口の方へ走って行って、彼を脅したあの顔の持主を物色した。併し、いくら探してもそんな顔は見当らないのだ。念の為に一度上座の方へ戻って、元の位置に近い所から、株主達の顔を一人一人見直しても、もう辻堂に似た顔さえ見出すことが出来なかった。

その会場の大広間は、人の出入自由なあるビルヂィングの中にあったのだが、考え様によっては、偶然聴衆の中に辻堂と似た人物がいて、それが平田氏の探した時には、もう立去ったあとだったかも知れない。でも世の中にあんなによく似た顔があるものだろうか。平田氏はどう考え直して見ても、それが瀕死の辻堂のあの恐しい宣言に関係がある様な気がして仕様がなかった。

それ以来、平田氏は屡々辻堂の顔を見た。ある時は劇場の廊下で、ある時は公園の夕闇の中で、ある時は旅行先の都会の賑かな往来で、ある時は彼の邸の門前でさえ。この最後の場合などは、平田氏は危く卒倒する所であった。ある夜更けに、よそから帰った彼の自動車が今門を這入ろうとした時だった。