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ゆみまちより
弓町より
石川 啄木
「東京毎日新聞」1909(明治42)年11月30日、12月2日~7日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,684 字 · 18 页
そうして、一つ処にいてだんだんそこから動かれなくなるような気がしてくると、私はほとんど何の理由なしに自分で自分の境遇そのものに非常な力を出して反抗を企てた。その反抗はつねに私に不利な結果を齎した。郷里から函館へ、函館から札幌へ、札幌から小樽へ、小樽から釧路へ――私はそういう風に食を需めて流れ歩いた。いつしか詩と私とは他人同志のようになっていた。たまたま以前私の書いた詩を読んだという人に逢って昔の話をされると、かつていっしょに放蕩をした友だちに昔の女の話をされると同じ種類の不快な感じが起った。生活の味いは、それだけ私を変化させた。「――新体詩人です」といって、私を釧路の新聞に伴れていった温厚な老政治家が、ある人に私を紹介した。私はその時ほど烈しく、人の好意から侮蔑を感じたことはなかった。
思想と文学との両分野に跨って起った著明な新らしい運動の声は、食を求めて北へ北へと走っていく私の耳にも響かずにはいなかった。空想文学に対する倦厭の情と、実生活から獲た多少の経験とは、やがて私しにもその新らしい運動の精神を享入れることを得しめた。遠くから眺めていると、自分の脱けだしてきた家に火事が起って、みるみる燃え上がるのを、暗い山の上から瞰下すような心持があった。