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おたか

御鷹

吉川 英治

「オール讀物」文藝春秋、1936(昭和11)年2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,767 字 · 18 页

青空文庫

六

お悦は角三郎の行きとどいた気持がうれしかった。

だが――彼女の顔はそれを披いてから真っ蒼になってしまった。自分の訪れを予期して角三郎が書いて行ったものには違いないが、いつもの欣しい文字ではない遺書と云ってもいい悲壮なものであった。

六

文字はみだれていない、角三郎のふだんの姿や面ざしのように理智に澄んでいる。

文面に依ると――

昨夜、黄瀬川弁馬から、自分の手へ果し状をつけて来た。御薬園裏の萱原で――と場所まで指して。

日頃、腕自慢の弁馬であるから、恋も力で解決するつもりらしい。見せしめにもなる、すぐ、承知の返事を持たせてやった。

それはよいが――その文中に、聞きずてならない雑言を誌してある。それは、おまえの妊娠だ。おれはいつぞやそれと其女からささやかれた時も、何の顔いろもうごかしていなかったように信じていた。自分のした事を、おまえの欣しそうな顔を。

ところが、弁馬は、

『すでに、おれの子を妊振っている女を』

と手紙のうちに押ぶとく書いているのだ。おれは迷った。然し――今さら何うしよう。果し状をつきつけられて、女を敵に捧げるほど、小柴角三郎はお人よしにはなれない。