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こころのアンテナ

心のアンテナ

佐々木 邦

「現代」大日本雄辯會講談社、1937(昭和12)年1月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,973 字 · 27 页

青空文庫

と鐘さん、頗る得意だ。旦那衆の後援で義太夫学校がその中に出来る。鐘師匠は校長さんということに定っている。

斯うなると、内弟子は銀太夫君一人では間に合わない。家も広いのに越して、鐙太夫錺太夫というのが最近住み込んだ。その前にも一人来たが、その男は奥さんの気に入らなくて追い出された。もう一人鈴太夫というのが外から通っている。皆金偏の名をつけて貰う。師匠の鐘太夫に因むこと無論だが、金が儲かるようにという御幣も充分利いている。鐙太夫は大阪の文楽座から逃げて来た。銀さんよりも一つ若い。

「駄目ですよ。豆食いをしていたんですから」

と謙遜した。これは大勢で語る時、末席に居流れて口丈け動かしているのだが、文楽座の豆食いになるまでには、五六年の修業が要る。錺太夫の方は師匠の同輩が中風になったものだから、その弟子を引受けたのである。これも銀さんより若いけれど、芸は先輩だ。もう高座を勤めている。

「初めからこゝの師匠についていれば、もっと出世しているんです」

と此奴は遠慮をしない。

銀太夫君としては何方も強敵だ。マイナス芸イコール零の師匠は芸の好いのを信用してしまう。