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かいそう
快走
岡本 かの子
「令女界」1938(昭和13)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 5,273 字 · 11 页
やがて洗し場に出て洗い桶を持って来るときは、お湯に逆上せてふらふらしたが、額を冷水で冷したり、もじもじしているうちに癒った。
「いい加減に出ませんか」
母親は道子のそばへ寄って来て小声で急き立てるので、やっと身体を拭いて着物を着たが、家へ帰るとまた可笑しくなって奥座敷へ行って独りくすくす笑った。
「道子はこの頃変ですよ。毎晩お湯に行きたがって、行ったが最後一時間半もかかるんですからね。あんまり変ですから今日は私昼間連れて行ってみました」
母親は茶の間で日記を書き込んでいた道子の父親に相談しかけた。
「そしたら」
父親も不審そうな顔を上げて訊いた。
「随分長くいたつもりでしたが四十分しかかかりませんもの」
「そりゃお湯のほかに何処かへ廻るんじゃないかい」
「ですからゆうべは陸郎に後をつけさせたんですよ。そしたらお湯に入ったというんですがねえ、その陸郎が当てになりませんのよ。様子を見に行ったついでに、友達の家へ寄って十二時近くまで遊んで来るのですから」
「ふーん」
父親はじっと考え込んでしまった。
雨のために響きの悪い玄関のベルがちりと鳴って止むと、受信箱の中に手紙が落された音がした。