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あやしのやかた

怪しの館 短編

国枝 史郎

国枝史郎『怪しの館 短編』。同一底本的分册已合并为一书。收入:怪しの館、一枚絵の女、犬神娘、開運の鼓、猿ヶ京片耳伝説、日置流系図、北斎と幽霊。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 81,915 字 · 165 页

青空文庫

(わしは殺される、わしは殺される!)

と、そのとたんに源空は観念した。

するとその瞬間に過去のことが、一時に彼の脳裡に浮かんだ。

三

二十五の時の弥兵衛であった。お伊勢様へ抜け参りをした。どうしたものか三河の国の御油の駅路近くやって来た時に、道を迷ってあらぬ方へ行った。そうして寂しい山村へ来た。おりから夕暮れで豪雨が降り、どうすることも出来なかったので、豪家らしい屋敷の門際に佇み、雨のやむのを待っていた。するとそこへ上品な老人が供を連れて通りかかったが、弥兵衛を見ると親切に声かけその屋敷へ伴なった。老人はその屋敷の主人なのであった。弥兵衛は町人の伜であり、母一人に子一人の境遇、美貌であり品もあり穏しくもあったが、どっちかといえば病身で、劇しい商機にたずさわることが出来ず、家に小金があるところから、和歌俳諧茶の湯音曲、そんなものを道楽にやり、ノンビリとしてくらしていたので、どこか鷹揚のところがあった。

屋敷の主人は弥兵衛のために、驚くばかりの馳走をし、茶菓を出し酒肴をととのえ、着飾った娘のおきたをさえ出し、琴を弾かせて饗応した。

こういうことが縁となり、弥兵衛とおきたとは恋仲となり、おきたは弥兵衛へあけすけに云った。