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かいむ

怪夢

夢野 久作

「文学時代」1931(昭和6)年10月、「探偵クラブ」1932(昭和7)年6月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,100 字 · 23 页

青空文庫

工場

工場

厳かに明るくなって行く鉄工場の霜朝である。

二三日前からコークスを焚き続けた大坩堝が、鋳物工場の薄暗がりの中で、夕日のように熟し切っている時刻である。

黄色い電燈の下で、汽鑵の圧力計指針が、二百封度を突破すべく、無言の戦慄を続けている数分間である。

真黒く煤けた工場の全体に、地下千尺の静けさが感じられる一刹那である。

……そのシンカンとした一刹那が暗示する、測り知れない、ある不吉な予感……この工場が破裂してしまいそうな……。

私は悠々と腕を組み直した。そんな途方もない、想像の及ばない出来事に対する予感を、心の奥底で冷笑しつつ、高い天井のアカリ取り窓を仰いだ。そこから斜めに、青空はるかに黒煙を吐き出す煙突を見上げた。その斜に傾いた煙突の半面が、旭のオリーブ色をクッキリと輝かしながら、今にも頭の上に倒れかかって来るような錯覚の眩暈を感じつつ、頭を強く左右に振った。

私は、私の父親が頓死をしたために、まだ学士になったばかりの無経験のまま、この工場を受け継がせられた……そうしてタッタ今、生れて初めての実地作業を指揮すべく、引っぱり出されたのである。