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きょうふのくちぶえ
恐怖の口笛
海野 十三
「富士」1934(昭和9)年8月号~11月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 60,713 字 · 122 页
「ああ、一郎さん、助けてエ――」
「曲者、なにをするかア、――」
青年は西一郎だった。彼はジュリアに返事をする遑もなく、彼に似合わしからぬ勇敢さをもって、いきなり痣蟹の背後から組みついた。
「なにを生意気な小僧め!」
痣蟹は落ちつき払って一郎を組みつかせていた。
「ジュリア、いまに思い知るぞオ」
という声の下に、彼はエイッと叫んで身体を振った。その鬼神のような力に、元気な一郎だったが、たちまちと振りとばされてしまった。
「さあ皆で懸れ、警官隊も来ているから、大丈夫だ」と声を聞きつけて、応援隊が飛びこんで来た。痣蟹は警官隊と聞くと舌打ちをして、入口に殺到した劇場の若者を押したおし、廊下へ飛びだした。アレヨアレヨという間に、階段から下へ降りようとしたが、下からは駈けつけた大江山課長等がワッと上ってきたのを見ると、
「やッ」
と身を翻してそこに開いていた窓を破って屋上へ逃げた。
「それ、逃がすなッ」
一同はつづいて、屋上に飛び出した。痣蟹は巨大な体躯に似合わず身軽に、あちこちと逃げ廻っていたが、とうとう一番高い塔の陰に姿を隠してしまった。
「さあ、三方から彼奴を囲んでしまうのだ。