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うらみなきさつじん

恨なき殺人

宮島 資夫

「新日本」1917(大正6)年9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 27,611 字 · 56 页

青空文庫

石山と池田との間は、段々にこじれて行くばかりであった。事務所にいる間は、二人とも滅多に口を利くことはなかった。石山が現場の見廻りに来て、掘進や鉱量のことで何か言い出すと、池田はきっと反対をした。

夏になって、鉱産量がめっきり増して来たのに、坑夫の賃金が増さないと言うので、坑夫の中からは苦情を言うものが出て来た。石山は池田が坑夫を煽動するように思い込んでいるらしく、山に来る時は、きっとピストルを離さなかった。

事務所に帰って、石山と睨み合いをしているような、不愉快な日を過すより、見張りに宿直する方が池田には好もしいことであった。彼は仲間の分まで代って山に宿るようになった。

四時になって、選鉱場の人夫や女工が帰ると、事務員はワイワイ騒ぎながら山から帰って行った。見張りに残った池田は、急いで判座帳の整理をして了うと、直ぐに坑内を一巡した。坑夫や掘子に注意する丈けのことをしてしまうと、それからは、自分一人の世界だと思うのであった。

山番に焚かせた風呂に入って、浴衣に着替えてしまうと、彼はよく裏の山に登って行った。その山の頂からは眼の下に起伏する幾重の山が、遠く北国の高い山で劃られるまで、数限りなくつづいていた。