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あくりょう

悪霊

江戸川 乱歩

「新青年」博文館、1933(昭和8)年11月~1934(昭和9)年1月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 33,980 字 · 67 页

青空文庫

それからこいつの身体だが、それは顔程ではなかったけれど、やっぱり木乃伊を思出す痩せ方であった。着ていたのは、盲目縞の木綿の単衣のぼろぼろに破れたもので、殊に左の袖は跡方もなくちぎれてしまって、ちぎれた袖の間から、黒く汚れたメリヤスのシャツに包まれた腕のつけ根が、肩から生えた瘤みたいに窺いていた。その瘤の先が風呂敷の結び目の様にキュッとしぼんでいるのは、一見外科手術の痕で、この乞食が癩病患者ではないことを語るものだ。胴体は非常な老人の様に全く二つに折れて、ちょっと見ると座っているのだか寝ているのだか分らない程であったが、その胴体に覆い隠された隙間から、膝から上丈けの二本の細い腿が窺いて見えて、それが泥まみれの躄車の中にきっちりと嵌まり込んでいた。年齢はどう見ても六十才以上の老人であった。

例の癖で、僕は饒舌になりすぎた様だ。道草はよして姉崎家を訪ねることにしよう。そしてなるべく手取早く犯罪事件に入ることにしよう。で、夫人の家を訪ねると、顔見知りの女中が、広い家の中にたった一人でいた。何かしらただならぬ様子が見えたので、僕はその訳を尋ねて見たが、女中の答えた所は次の通りであった。