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あくりょう

悪霊

江戸川 乱歩

「新青年」博文館、1933(昭和8)年11月~1934(昭和9)年1月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 33,980 字 · 67 页

青空文庫

(黒川博士の専攻は心霊学などには全く縁遠い実験心理学であって、こういう妙な会を主宰していられるのは、先生の道楽に過ぎないことを、君も多分知っていると思う)

その次には槌野君が入って来た。槌野君は大学とは関係のない素人の熱心家で、俗に一寸法師という不具者なのだ。三十五歳だというのに背は十一二の子供位で、それに普通の大人よりは大きな頭が乗っかっている。非常に貧乏な独り者で、二階借りをして筆稿かなんかで生活して、霊界のことばかり考えている変り者だ。いつも地味な木綿縞の着物に茶色の小倉の袴を穿いて、坊主頭にチョビ髭を生やした、しかつめらしい顔で黙りこくっている。

その二人が加わって暫く雑談を交している所へ、熊浦氏がやって来た。有名な妖怪学者だから君も名は聞いているだろう。昔妖怪博士と渾名された名物学者があった。あらゆる不可思議現象に現実的な心理学的解釈を加えて尨大な著述を残したので知られている。熊浦氏はその人の後継者の様に云われ、同じ「妖怪」という渾名をつけられているが、昔の妖怪博士とは違って、博士の肩書など持たない私学出の民間学者で、妖怪と心理学とを結びつけるのではなくて、妖怪そのものに心酔している中世的神秘家なのだ。