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わがやのらくえん

我が家の楽園

久生 十蘭

「オール読物」1953(昭和28)年1月〜6月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 90,195 字 · 175 页

青空文庫

用いぬこともございませんが、掛引だの、ペテンだのってえものは、ひっかかるような相手にしか通用しないもので、占領作戦の最中に、そんなことをやったことがわかったら、たちまち沖繩へ島流しになって、重労働十年、てなことになっちまいます。ええ、その辺のところは、ご信用をねがって……それで、早速ですが」

と本題に入りかけると、太田夫人は横からひったくって、

「石田さん、このとおり、さっぱり頭のない男やで、なにをいうとるのか、わからんでしょう。通じないところは、わしが代弁しますが、ここはあまり端近かやね。奥へ行って、ゆっくり話そやないですか」

石田氏は嫌気になって、投げだすことしか考えにないらしく、百々子に、

「あれがいるだろう。あれを呼んで来い」

と気のない調子でいいつけた。

「あれは、千々子さまと早くからお出かけになりましてございます。お帰りは、夕方になると、おっしゃっていらっしゃいました」

「居ないのか。居ないなら、しょうがない」

ぬうっとした恰好で立ちあがると、二人を連れて、広廊の端の千々子さまのサロンへ入って行った。

間もなく、こんなことをいっている太田夫人の声が聞えた。