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わがやのらくえん
我が家の楽園
久生 十蘭
「オール読物」1953(昭和28)年1月〜6月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 90,195 字 · 175 页
楽園に帰る
一
シュラーは、急な用事ができて、ヨーロッパのほうへ廻っているんです」と、おしえてくれた。
だいぶ夜が更けたころ、庭の花むらのなかから、
「エンジェル……エンジェル」
と呼ぶ声が聞えた。
しばらくすると、うちのメードさんが、なにか胸のところに大切そうに抱えながら、夜遊びにぬけだすいつもの恰好で、花間の小径を、プールのあるほうへ降りて行くのが見えた。
翌朝、メードさんの部屋へ行ってみると、捨子の入っていた脱衣籠のなかに、昨日の士官と、赤ん坊と、片山カネの三人で撮った写真に添えて、かんたんな置手紙があった。子供連れで、長い間、お世話になったことを感謝する。ジョージが根拠地隊付になったので、いっしょに佐世保へ行く。この写真は、記念のために差しあげます、と書いてあった。
誰かシュラー氏を知らないか。もし、どこかで逢ったら、日本のトォキョーで、千々子さまが痩せの立つほど、待ちこがれていると、伝えてもらいたい。
楽園に帰る
一
なにもかにも、おさまるところへおさまった今になってみれば、二十七年の上半期の星のめぐりは、駐留米軍にとっても、わが石田家にとっても、このうえもない悪い運勢のものであった。