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わがやのらくえん
我が家の楽園
久生 十蘭
「オール読物」1953(昭和28)年1月〜6月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 90,195 字 · 175 页
要るものは、みな手近にあって、なんでも居なりで用が足りるし……こういっちゃなんですが、きれいにする精もないから、お掃除なんかもしない。めんどくさいと、茶の間へ七輪を持ちこんで、朝から小鍋立てというんです。あなたにしたって、結構すぎるくらいのものだったでしょう。この生活に別れるのだと思うと……」
嘘かまことか、賢夫人は調達局のハガキをながめながら、綿々と失楽園の嘆きをうたいあげた。
この点、石田氏も同感なので、愚痴のひとつもいいたいところだったのだろうが、それでは見識にかかわると思ったのか、
「今更そんなことをいってみたって、どうにもなりはしない。問題は、あの家で、どう、やりくりしていくかということなんだ。お前さんのつもりは、どうなんだね?」
「あたしのつもりをきかれたって、お返事のしようがありませんね。どうせ、あたしの力には及ばないことなんですから……わずかばかりの俸給で、あの大きな邸を、どう切りまわせとおっしゃるんです? それはご無理というものですわ」
「俺の俸給の高は、いわなくともわかっている。あれは真理や原則のようなもので、たやすく動くことはない。