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わがやのらくえん

我が家の楽園

久生 十蘭

「オール読物」1953(昭和28)年1月〜6月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 90,195 字 · 175 页

青空文庫

四

どうせ、はじまるものははじまるのなら、すこしも早く機会を与えようと、座をはずして、表玄関のほうへ遊びに行った。

百々子のつもりでは、玄関脇のあたりで時待ちしているつもりだったが、広廊の端まで行かないうちに、もう後ろで戦争がはじまった。

雄叫びのもようからおすと、今日の戦争は、相当、長びくことになるらしい。芝生にでも寝ころがって、待っているほかないと覚悟しながら、いぜん提灯部屋といっていた、玄関脇の部屋の角を曲ろうとすると、むこうの洋館につづく渡橋のあたりで、チラと女のひとの後姿を見たような気がした。

千々子さまは、五十雄君のそばにいるはずだから、こんなところへあらわれるわけはないが、なにか急用ができて、賢夫人を探しているのかもしれないと思って、

「お姉さま、ここよ」

と声をかけたが、答えはなかった。

束の間の印象を辿りかえすと、昨日、上段の間へ入ってきた、黒いスーツを着た女のひとの後姿に似ているようだったが、考えているうちに、ほんとうに人の姿だったのかどうか、自信がなくなった。

四

お勝手のほうで、石田さん、石田さんと呼んでいる。出てみると、黒い服を着た男のひとが立っていた。