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わがやのらくえん

我が家の楽園

久生 十蘭

「オール読物」1953(昭和28)年1月〜6月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 90,195 字 · 175 页

青空文庫

「石田ですけど」

「水道局ですが、水道料を……五千百六十円です」

「それは、前のひとの分じゃありません? あたしどもは、まだ越して来ていないんです」

「前にいらした方の分は、四月十六日にいただきました。これは、それ以後の分です。プールの水の使用料……四百三十立方米になっています」

バラック住居の現在において、わが石田家が水道局に支払う料金は、毎月、百円そこそこだから、五千百円の水道料なんて、考えられもしない。いちどプールを満水にすると、石田氏の月給の四分の一がすっ飛ぶというのでは、将来、この家に住むようになったら、石田家の家計は、ものすごい痙攣を起こすのだろうと思われた。

当方においては、過去にも現在にも、そんな莫大な水道料を払う能力をもってないのだが、水道局のほうでは、そんなことは知らない。簡単に払ってもらえるものだと思って、のんきな顔で待っている。百々子ごときの、手にあうことではないので、いそいで石田氏を呼びに行った。

上段ノ間のケースメント越しにのぞいてみると、貸蒲団屋の夜具が、さんざんに蹴散らされ、賢夫人は、壁際の床の上に足を投げだして坐り、石田氏は、その前に立って、肩で息をついていた。