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わがやのらくえん

我が家の楽園

久生 十蘭

「オール読物」1953(昭和28)年1月〜6月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 90,195 字 · 175 页

青空文庫

二

つまりは、洋式の上段ノ間を茶の間にして、長火鉢とチャブ台を置き、朝々、百々子が、起きぬけに道源寺坂を駈けくだり、谷町のゴミゴミした界隈へ、納豆を買いに行く間に、細紐一本の千々子さまが、部屋の隅で七輪の尻をあおぎ、天井のアメリカの漆喰に生臭い味噌汁の湯気を吹きつけるころ、破れ褞袍を前ひろげに着た石田氏が、寝起きの悪い蒼ざめた顔で起きてきて、毛のない瘠せ脛でチャブ台をひっ挾み、ぬる茶を飲みながら新聞を読むという、むかしながらの境界にたちかえったのである。

二

後でわかったことだが、移転後の生活の様式について、賢夫人と千々子さまの間で、陰謀のように、いろいろな計画がめぐらされていたらしい。

一つは食事の習俗のことだが、ニス塗りの床に坐りこみ、チャブ台を挾んで、猫背になってアフアフと取りこむ図は、貧乏ったらしくて見られたものではないから、アメリカ人の後釜に入ったのを機会に、バラック式のはおやめにして、食卓と椅子による、環境に適した立体的な様式でやろうという申合せがあり、五日目の日の夕食から、さっそく実行にとりかかった。

夕方、百々子が自分の部屋にきめた洋館の二階の、東向きの部屋で片附けもののつづきをやっていると、千々子さまが、どこかの貴婦人のような、すうっとした顔であがってきた。