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わがやのらくえん
我が家の楽園
久生 十蘭
「オール読物」1953(昭和28)年1月〜6月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 90,195 字 · 175 页
手を洗いに階下へ降りたが、チャイム・ベルは千々子さまの嫌がらせだったらしく、食事がはじまっているようなようすはなかった。
千々子さまを探しながら、西のご不浄のサロンへ行くと、机の上に、『結婚式の心得』という薄っぺらなパンフレットが置いてあって、
会師、二人ノ手ヲ合セテ、言ウ
神の合せ給える者は、人これを離すべからず。
というところに、爪でしるしをつけてあった。
パンフレットの下に、あまり見かけない絵入りのカタログのようなものがあるので、なんだろうと思ってあけてみたら、教会の結婚式の定価表で、特、一、二と、三級の様式が、それぞれ図入りで説明してある、念の入ったものだった。
二等は『並』というところらしく、司会(補導)一人、聖壇大蝋燭一対、内陣大花瓶(花とも)一対、奏楽が一曲で終り。一等になると、司会が二人になり、奏楽は二曲、司会のほかに、助祭と花撒きの少女が二人つくことになっている。
特等はすこぶるセンセーショナルなもので、門から会堂の入口まで日除をかけ、赤い長絨氈を敷き、花撒きの少女のほかに、白いガウンを着た少年の唱歌隊、枝付大燭台の百五十本の蝋燭に火がともり、オルガンの奏楽もぐっとふえて、前奏二、間奏二、祝楽二となり、前後二回、祝鐘を鳴らすと書いてある……爪のあとは、ここにもついていた。