轻松读懂日语经典作品
ja-reading.com
轻松读懂日语,轻松阅读日语。在线阅读日语经典作品。支持在阅读过程中显示假名、查询生词、翻译句子。
わがやのらくえん
我が家の楽園
久生 十蘭
「オール読物」1953(昭和28)年1月〜6月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 90,195 字 · 175 页
同僚の一人が、
「それを、どうするんです」
と余計なことをたずねると、石田氏は、
「これは君、昼食だよ」
と、乏しい顔で笑ったというのは、聞くだにあわれな話であった。
この世で、貧乏と不如意ほど嫌なものはないはずのうちの賢夫人が、いつの間にか、バラック住居の貧乏暮しになじんで、たのしそうに、一日中、ニコニコしている。妙なこともあるものだと思っていたが、実は、なりふりかまわず、心おきなく貧乏のできる環境を利用して、せっせと臍繰りを貯めこんでいたので、こんな楽しいことはないなどといっていたのは、月々殖えていく、貯金帳の額のことだったのだと、最近になって、やっと理解した。
たえず、『自分』というものをひけらかし、甘やかされるか、ちやほやされるかしなければ、不服で、退屈で、生きた空はないという千々子さまが、この七年間、バラックの玄関の三畳をおのが居場所にきめ、編物をただひとつの慰めにして、男臭いものは相手にせずといった顔で、行ない澄していたことも、いまから思うと、不可解の極だった。
百々子としては、千々子さまは、ひょんな死にかたをした愛人のおもかげを偲びながら、日毎、不幸な魂に祈りを捧げているので、結婚にも愛情にも、うるさい世間との取引きをきっぱりと謝絶し、独身のまま、玄関脇の薄暗いところで朽ち果てる覚悟をしたのだ