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あるおんな
或る女
有島 武郎
2(後編)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 205,655 字 · 406 页
木部はどうかすると居直るような事をしかねない男だと葉子は兼ねて思っていたからだ。しかし木部という事を先方からいい出すまでは包めるだけ倉地には事実を包んでみようと思って、ただにこやかに、
「こんな所でお目にかかろうとは……わたしもほんとうに驚いてしまいました。でもまあほんとうにお珍しい……ただいまこちらのほうにお住まいでございますの?」
「住まうというほどもない……くすぶりこんでいますよハヽヽヽ」
と木部はうつろに笑って、鍔の広い帽子を書生っぽらしく阿弥陀にかぶった。と思うとまた急いで取って、
「あんな所からいきなり飛び出して来てこうなれなれしく早月さんにお話をしかけて変にお思いでしょうが、僕は下らんやくざ者で、それでも元は早月家にはいろいろ御厄介になった男です。申し上げるほどの名もありませんから、まあ御覧のとおりのやつです。……どちらにおいでです」
と倉地に向いていった。その小さな目には勝れた才気と、敗けぎらいらしい気象とがほとばしってはいたけれども、じじむさい顎ひげと、伸びるままに伸ばした髪の毛とで、葉子でなければその特長は見えないらしかった。倉地はどこの馬の骨かと思うような調子で、自分の名を名乗る事はもとよりせずに、軽く帽子を取って見せただけだった。