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あるおんな
或る女
有島 武郎
1(前編)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 149,981 字 · 295 页
葉子はそういう人たちの間にあるのを結句気安く思った。彼らは葉子を下級船員のいわゆる「姉御」扱いにしていた。
「向こうに着いたらこれで悶着ものだぜ。田川の嚊め、あいつ、一味噌すらずにおくまいて」
「因業な生まれだなあ」
「なんでも正面からぶっ突かって、いさくさいわせず決めてしまうほかはないよ」
などと彼らは戯談ぶった口調で親身な心持ちをいい現わした。事務長は眉も動かさずに、机によりかかって黙っていた。葉子はこれらの言葉からそこに居合わす人々の性質や傾向を読み取ろうとしていた。興録のほかに三人いた。その中の一人は甲斐絹のどてらを着ていた。
「このままこの船でお帰りなさるがいいね」
とそのどてらを着た中年の世渡り巧者らしいのが葉子の顔を窺い窺いいうと、事務長は少し屈託らしい顔をして物懶げに葉子を見やりながら、
「わたしもそう思うんだがどうだ」
とたずねた。葉子は、
「さあ……」
と生返事をするほかなかった。始めて口をきく幾人もの男の前で、とっかは物をいうのがさすがに億劫だった。興録は事務長の意向を読んで取ると、分別ぶった顔をさし出して、
「それに限りますよ。あなた一つ病気におなりなさりゃ世話なしですさ。