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あるおんな
或る女
有島 武郎
1(前編)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 149,981 字 · 295 页
一四
一四
なんといっても船旅は単調だった。たとい日々夜々に一瞬もやむ事なく姿を変える海の波と空の雲とはあっても、詩人でもないなべての船客は、それらに対して途方に暮れた倦怠の視線を投げるばかりだった。地上の生活からすっかり遮断された船の中には、ごく小さな事でも目新しい事件の起こる事のみが待ち設けられていた。そうした生活では葉子が自然に船客の注意の焦点となり、話題の提供者となったのは不思議もない。毎日毎日凍りつくような濃霧の間を、東へ東へと心細く走り続ける小さな汽船の中の社会は、あらわには知れないながら、何かさびしい過去を持つらしい、妖艶な、若い葉子の一挙一動を、絶えず興味深くじっと見守るように見えた。
かの奇怪な心の動乱の一夜を過ごすと、その翌日から葉子はまたふだんのとおりに、いかにも足もとがあやうく見えながら少しも破綻を示さず、ややもすれば他人の勝手になりそうでいて、よそからは決して動かされない女になっていた。始めて食堂に出た時のつつましやかさに引きかえて、時には快活な少女のように晴れやかな顔つきをして、船客らと言葉をかわしたりした。食堂に現われる時の葉子の服装だけでも、退屈に倦じ果てた人々には、物好きな期待を与えた。