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あるおんな
或る女
有島 武郎
1(前編)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 149,981 字 · 295 页
香水や、化粧品や、酒の香をごっちゃにした暖かいいきれがいきなり古藤に迫ったらしかった。ランプがほの暗いので、部屋のすみずみまでは見えないが、光の照り渡る限りは、雑多に置きならべられたなまめかしい女の服地や、帽子や、造花や、鳥の羽根や、小道具などで、足の踏みたて場もないまでになっていた。その一方に床の間を背にして、郡内のふとんの上に掻巻をわきの下から羽織った、今起きかえったばかりの葉子が、はでな長襦袢一つで東ヨーロッパの嬪宮の人のように、片臂をついたまま横になっていた。そして入浴と酒とでほんのりほてった顔を仰向けて、大きな目を夢のように見開いてじっと古藤を見た。その枕もとには三鞭酒のびんが本式に氷の中につけてあって、飲みさしのコップや、華奢な紙入れや、かのオリーヴ色の包み物を、しごきの赤が火の蛇のように取り巻いて、その端が指輪の二つはまった大理石のような葉子の手にもてあそばれていた。
「お遅うござんした事。お待たされなすったんでしょう。……さ、おはいりなさいまし。そんなもの足ででもどけてちょうだい、散らかしちまって」
この音楽のようなすべすべした調子の声を聞くと、古藤は始めて illusion から目ざめたふうではいって来た。