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あるりょうにんのざんぱい

或良人の惨敗

佐々木 邦

「面白倶楽部」1926(大正15)年2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,067 字 · 15 页

青空文庫

「驚いたね。尤もお前は碁を知らないから、そんな風に考えるのだろう。碁って奴は弱ければ置いて打つから誰でも対等だよ。勝負は時の運さ。俺だって一生に一度ぐらいは全勝もしようさ。家へ来る碁打ち連中に訊いて見るが宜い。それに一等賞として水引をかけて熨斗をつけてあったじゃないか?」

「水引ぐらいは碁盤屋の小僧にもかけられますわ。私は証拠を握っていますよ」

「何んな証拠を?」

「それ御覧なさい。気になるじゃありませんか?」

「釣ろうったって駄目だよ。盆栽の方は仕方がないが、碁盤は寃罪だ」

「それじゃ盆栽丈けはお認めになりますのね」

「或程度まで認める。俺はもう寝るよ」

「あなたは能く/\図太い人ね?」

と夫人は呆れ果てたように言った。

「何故?」

「何処までも駈引があるんですもの」

「勝手にしなさい」

「あなた、もし私が碁盤屋の受取証を持っていたら何うなさいます」

「え?」

「金八十五円、芝区今入町でございますよ」

「ふうむ。恐れ入った」

と鳥居氏はもう退っ引きならなかった。一回戦に負けた良人は二回戦でイヨ/\泥を吐いたのである。

「それ御覧なさいませ」

「一言もないよ。矢っ張り悪いことは出来ないものだね。