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せんゆう
戦友
小川 未明
「新児童文化 第4冊」1942(昭和17)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 3,699 字 · 8 页
「前進。」
つづいて号令が、かかった。
終日、風の音と、雨の音と、まれに鳥の声しかしなかった平原が、たちまちの間に、草の木も根こそぎにされて、寸々にちぎられ、空へ吹き飛ばされるような大事件が持ち上がりました。大地をゆるがす砲車のきしりと、ビュン、ビュンと絶え間なく空中に尾を引くような銃弾の音と、あらしのごとくそばを過ぎて、いつしか遠ざかる馬蹄のひびきとで、平原の静寂は破られ、そこに生えている紫の花と白い花とは、思わず、恐怖にふるえながら、顔を見合ってささやいたのでした。
「なにが起こったのでしょう。」
「暴風雨がやってきたともちがいますね。」
ここに生えている木や、草たちは、ほんとうに雷鳴と、暴風雨よりほかに怖ろしいものが、この宇宙に存在することを知らなかったのでした。
「やはり、暴風雨でしょうね。いまにちょうが飛んできたら聞いてみましょう。」
いつも、暮れ方の陽が、斜めにここへ射すころ、淡紅色の小さなちょうがどこからともなく飛んできて、花の上へ止まるのでした。花たちは、そのちょうのくるのを待っているのであるが、今日にかぎってちょうは、どうしたのか、姿を見せなかったのです。