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ぬきうちししべえ

抜打ち獅子兵衛

山本 周五郎

「講談雑誌」大日本雄辯會講談社、1940(昭和15)年2月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,930 字 · 24 页

青空文庫

「お家の名に泥を塗るやつ、生けてはやらぬぞ」

「左内、潔く割腹しろ!」

左内は黙って一歩退った、……そして眼は二人を瞠めながら、しかし、相手が意外に思うほど静かな、落着いた声で玄蕃に呼びかけた。

「御老職、せっかくながら左内はまだ切腹はできません、それよりむしろ拙者から一言呈したいと思います。御老職はじめ各々は、本当にお家を再興することができると思っていますか、御親類諸侯が見向きもしないのに、微々たる我々の力で、柘植家再興がかなうとお思いですか」

「無駄言はいらぬ、抜け左内!」

「無駄言ではない、できもせぬことを神だのみにして、この先いつまで便々と待っているのだ、妙泉院さまはしばらくおく、お姫さまをどうするのだ、お家再興が不可能ならせめてお姫さまなりと世にお出し申さなくてはなるまい、貴公らが当もない夢を見ているあいだに、お姫さまのお年頃はいたずらに過ぎて行くのだぞ。御老職、あなたはそれをお考えになったことがありますか」

「黙れ左内」

角之進が口いっぱいに喚いた。

「往来なかで賭け勝負するような、腸の腐った貴様などに、我々の苦心が分るか、腹を切れ腹を、切らねば我らが……」