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ぬきうちししべえ

抜打ち獅子兵衛

山本 周五郎

「講談雑誌」大日本雄辯會講談社、1940(昭和15)年2月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,930 字 · 24 页

青空文庫

六

虎之助はしかし、すでに弓をおろしていた。そして左内が近寄るのを見ると、側に控えていた藤兵衛に弓を渡しながら、

「それには及ばぬぞ、あっぱれ美事なやつ。盃をとらせるから参れ」

と云って奥へ入った。

六

左内は支度を直したうえ、藤兵衛に導かれて御前へ出た。……虎之助は上機嫌であった。

「さても世間は広いものだな、兵法者の数も見てきたがそのほうほどの腕は柳生家を措いて多くはあるまい。名はなんという」

「館ノ内左内と申します」

「主持ちか、それとも浪人か」

「浪人でございます」

「盲人の多い世中とみえる、それほどの腕を買う者が無かったとは意外な、……どうだ、余の禄を食む気はないか、三万石の小身ゆえ食禄は多分にやれぬが、余にできるだけのことはするつもりだ」

「お言葉、身に余る面目に存じます。……その御寛濶にお縋り申して、わたくしにお願いがございますが、お聞き届けくださいましょうか」

「できることなら聞いて遣わそう」

「かたじけのうございます」

左内は平伏しながら、

「はなはだ不躾けなお願いでございますが、旧主の名の出ますことゆえ、どうぞお人払いのほどを」

「うんよい。……みな遠慮せい」