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ぬきうちししべえ

抜打ち獅子兵衛

山本 周五郎

「講談雑誌」大日本雄辯會講談社、1940(昭和15)年2月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,930 字 · 24 页

青空文庫

七

……実はわたくしの主人は、先年御改易に相成った柘植但馬守にございます」

「おお柘植侯の家中か」

「お家廃絶の後、家中離散のなかより不退転の者十五名、御後室妙泉院様、御息女倫子様おふたがたをお護り申上げ、今日までお家再興の時節を待っておりました。……しかし御承知のごとく、もはやその望みは絶え果てました。公儀お仕置の模様を拝察しましても、お家再興のことは諦めなければならぬと存じます」

虎之助は黙って頷いた。

「それもよし世の運命といたしまして、おいたわしいのは姫君でございます。お年は十七、御怜悧の質にて世に稀なお美しさを持ちながら、このまま生涯日蔭のお身の上かと思いますと、わたくしども臣下の身にとり残念とも無念とも申しようがございません」

「左内、……それでよいぞ」

虎之助は強く遮って、大きな眼にどこかだだっ児めいた笑をうかべながら云った。

「もうなにも申すな、……そのほうほどの者に見込まれたら逃げられまい」

「……殿!」

「住居を申せ、いずれ親元と話してしかるべく使をやるぞ」

「……殿、かたじけのう……」

左内は噎びながら平伏した。

七

春三月。

根岸の持輪寺から美々しい女乗物を中に十五人の侍たちが列をなして出て来た。