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ぬきうちししべえ
抜打ち獅子兵衛
山本 周五郎
「講談雑誌」大日本雄辯會講談社、1940(昭和15)年2月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,930 字 · 24 页
二
無紋の衣服に袴、冠り物なしでまだ元服していない自慢の大前髪を、早春の微風になぶらせながら、傲然と獅子兵衛の前へ立った。
「ぬきうち獅子兵衛とはそのほうか」
「いかにも獅子兵衛は拙者だ」
そう答えて彼も床几から立った。
二
「将軍家お膝下を憚らず、天下無敵などという高札を立て、世を騒がすのは不届きである。公儀を恐れぬ致しかたとは思わぬか」
「いささかもさようには思わぬ」
獅子兵衛は平然として答えた。
「拙者は兵法修業の者で、今日まで諸国を経めぐってきたが、いまだかつて敗れたことがない、当時江戸は将軍家お膝下で武術者も多いと聞いたから、どれほどの達人がいるか試みにきただけだ。不都合はあるまい、……もし、天下無敵が気に入らぬというなら勝負を望むがよい、金一枚で誰でも相手をする、断っておくが金一枚は金儲けのためではないぞ、詰らぬ腕前ばかり見せられるから、憂さはらしの酒手にもらうのだ」
「恐ろしく高言を吐くやつだ」
虎之助は、太い眉を動かして云った。
「田舎者は物の道理を知らぬとみえる、然るべき者が、かような場所へ、のこのこと武術の優劣を争いに出ると思うか」
「そうかも知れない、誰しも人なかで耻はかきたくないものだ」