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つめ
探偵クラブ 烙印
大下 宇陀児
大下宇陀児『探偵クラブ 烙印』。同一底本的分册已合并为一书。收入:爪、毒、偽悪病患者。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 51,509 字 · 103 页
「じアね、このことはあなたが上手にやらないといけませんよ」
はっきりとこういう声がした。話が満足に済んだものらしい。が、沖野にとっては、その次に聞えて来た簡単な会話が、つーんと鋭く胸へ響いた。
「ええ、大丈夫ですよ」
と竹中は答えて、それから追いかけるように言葉を継いだ。「あ、それからねえお母さん、済みませんけれど、誰かにそういって珈琲を拵らえさせてくれませんか。今日は頭をひどく使ってしまって――」
「珈琲なんぞ飲んで、夜が余計眠れないのじアないですか」
「いいえ、いいんですよ。飲んでも飲まないでも眠れないことは同じです。だから薬を飲んで眠るんですが、そうすると朝まで何も知らずに眠ります」
「薬だって矢張り毒でしょうに」
「大丈夫ですとも。毎日やるのじアないのですから――」
声の調子では、母親は母家への廊下口に立ち、竹中は室の窓の近くにいる様子であった。が、沖野の耳には竹中の薬を飲んで眠るという言葉だけが、はっきり残った。
寝室へ忍び込むのは、いかにも冒険に過ぎた気味があって、彼はそれまでなかなか決心が付かずにいた。けれども、竹中は今夜、何も知らずにぐっすりと眠るのだ。