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にぎったて
握った手
「別冊小説新潮 第八巻第六号」1954(昭和29)年4月15日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,293 字 · 23 页
「眼鏡だってアクセサリーの一ツだわ」
「キミには有害無益のアクセサリーだよ」
「趣味の問題よ」
「そう。しかし、キミの悪趣味だ」
「本当に、そう思う?」
「むろん。しかし、眼鏡はキミの自由にまかせるが」と眼鏡とコンパクトを彼女に返して、「人の意見も一応耳に入れておきたまえ。ところで青春をたのしみましょうという提案に対する御返事は?」
「アナタのような悪人、はじめてよ」
「人生を割りきってるだけのことなんだ」
「割りきれる? 人生が?」
「割りきるべきだよ。キミにも割りきることをすすめるね。で、キミの御返事は?」
「強引すぎるわ。私、混乱してるの。あしたここで御返事するわ。いまの時刻に」
水木由子は本や眼鏡やコンパクトを両手に持ったまま、身をひるがえして駈け去ったのである。
松夫は一時に春が訪れたような解放感に目マイがした。自分の所業があまりにも「偉大」であったことを身にしみて感じた。偉大な態度。偉大な言葉。
「オレは人生を割りきっているだけだ」とは、なんて壮大な言葉だろう。彼の今までの人生におよそ無縁な、そして、その瞬間まで思いもつかなかった言葉だ。オレの人生が割りきれたら、と今までどんなに切歯扼腕したか知れやしない。