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ばんしゅうへいや

播州平野

宮本 百合子

「新日本文学」(第1~11節)、「潮流」(第16・17節)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 106,683 字 · 214 页

青空文庫

ひろ子が二階で、雨のふりこまない西側の窓から線路の方を見ていると、母があがって来た。ひろ子と並んで線路、その先の竹藪、山裾へと視線をやった。真面目に気づかわしげにその方角をみた。その竹藪のかげに水無瀬川の、大きい河床がかくされているのであった。

六七年前の梅雨時分、ひろ子が来ていたとき、やはり雨がつづいた。刈りのこされた麦が、みんな黒穂にくさって、この窓から見わたすと、河床からあふれて麦畑を浸した大水が幾日も鈍く光った。黒いくさった麦の穂先だけが、その鉛色に光る水の上にそよいでいた。

「ほん、大難儀いのう。山の方で、みんな樹を伐らせよって、おまけに、根っこまで掘りおこしたから、水のとめどがないようになりよった」

「こんどは、いいあんばいにまだ、あっちの畑まで水が出ておりませんね」

「それで結構でありますよ」

石田の家は、街道に沿って埋立てたせまい三角地の上に窮屈に建て増し、建て増しされた家であった。廊下の中に庇合わいなどがあった。こんなに降ると、仏壇のおいてある戸棚の中が大もりになって、バシャバシャしぶいた。家じゅうそこここに、盥、バケツがもち出された。