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ばんしゅうへいや
播州平野
宮本 百合子
「新日本文学」(第1~11節)、「潮流」(第16・17節)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 106,683 字 · 214 页
「神田辺はのこったそうですな。これで、少しはいい本も出るもんでしょうか」
軍人は上眼づかいで、
「さあ……」
それぎりてんでとり合わない。話はそのまま消えてしまった。ずっと先に、白い毛糸の長靴下、しゃれた白い毛織の短ズボン、白の上衣、臙脂色のネクタイをつけ、一目して相当な地位の「南方関係」の男がいた。瀟洒としたその服装と丸顔の上にある不機嫌さは冷酷できたないものの中へ自分が落ちこんだという眼つきで車内の混乱を傍観している。
ひろ子は、七月の下旬、上野から乗って東北に向った夜行列車の光景を思い出した。混雑は名状出来ず、女は本当に悲鳴をあげた。ひろ子は、人波に圧されて押し込まれ、通路の他人の荷物の上で一夜を明した。しかし、その騒ぎは、同じ空爆を蒙る恐怖に貫かれ、事なかれと願う単純で正直なすべての旅客の希望で一致していた。
「いい月夜になったねえ。お月見にはもって来いだが、ちいと薄気味がよくないねえ」
「小山まで無事に行ったらね」
「ナニ、案ずるより生むがやすいってね」
流行唄を謡うものがあったりした。ひろ子のわきで、若い女と膝組みにもまれこまれた父親の好色めいた冗談を、その娘が