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はせくらじけん
支倉事件
甲賀 三郎
「読売新聞」1927(昭和2)年1月15日~6月26日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 204,697 字 · 406 页
根岸刑事は持前の調子で冷然と云った。
「兎に角僕の考え通りやってみよう」
「そうし給え」
横合から渡辺刑事が吐き出すように云った。彼はさっきから、自分が折角苦心して探し出した飯倉一丁目の家に、根岸刑事がケチをつけるような事を云うのでいら/\していたのだった。
根岸刑事はジロリと渡辺を見たが、何にも云わなかった。
石子、渡辺両刑事は五、六人の応援を得て、飯倉一丁目を目指して繰出した。
目的の家はT字路の一角に建った格子造りの二階家だった。裏口に二人、辻々の要所に一人宛同僚を立たせて、表口から石子、渡辺が這入る事に手筈を極めた。
日ざしの様子ではもう四時近いと思われた。寒は二、三日前に明けたけれども、朝から底冷えのするような寒さだった。日当りの悪い高山の家の前には、子供の悪戯であろう、溝石の上に溝から引上げて打ちつけた厚氷が二つ三つに砕けて散って居た。
ふと上を仰ぐと二階の半面には鈍い西日がさして、屋根の庇に夏から置き忘られたのだろう、古びた風鈴が寒そうに吊下っていた。
「ご免下さい」
石子は声をかけた。
「はい」
奥から出て来たのは十五六の女中風の小娘だった。