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ほうろうき(しょしゅつ)
放浪記(初出)
林 芙美子
「女人藝術」1928(昭和3)年10月号~1930(昭和5)年10月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 103,349 字 · 207 页
定員五拾名。
何と素晴らしい文字よ。
あゝ私の胸は嬉しさではち切れそうだった。
私の胸は空想でふくらんだ、酒屋でなくったってかまうものか。
旅へ出よう。
美しい旅の古里へ出よう。
海を見て来よう――。
私は二枚ばかり単衣を風呂敷に包むと、帯の上に脊負って、それこそ漂然と、誰にも沈黙って下宿を出た。
万世橋から乗合馬車に乗って、まるでこわれた羽子板のように、ガックン、ガックン首を振って長い事芝浦までゆられた。
道中費、金七拾銭也。
高いような、安いような、何だか降りた時は、お尻がピリピリ痺れてしまっていた。
すいとん―うであずき―おこわ―果実―こうした、ごみごみと埃をあびた露店をくゞって行くと、肥料くさい匂いがぷんぷんして、築港には、鴎のように白い水兵達が群れていた。
「灘の酒船の出るところはどこでしょうか。」
飛魚のように、ボートのいっぱい並んでいる小屋のそばの天幕の中に、その事務所があった。
「貴女お一人ですか……。」
事務員の人達は、みすぼらしい私の姿をジロジロ注視した。
「え、そうです、知人が酒屋をしてまして、新聞を見せてくれたのです。是非乗せて戴きたいのですが……国で皆心配してますから。