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ぶんかさい

文化祭

坂口 安吾

「小説新潮 第八巻第九号」1954(昭和29)年6月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,978 字 · 28 页

青空文庫

バンドマスターの谷とヤツ子はここ一週間ほど反目しあっていた。というのは、ヤツ子がキャバレーの常連の社長と飲みにでかけようとするのを谷が嫉いて、女給みたいなことをするな、バンドの名折れだぞ、と云ってヤツ子を怒らせてしまったからだ。

「ドサ廻りの旅芸人のような旅行はイヤ。誇りを持ちたいのよ」

ヤツ子はこう云い放った。この一行はまだ二等車で興行にでかけたことがなかったが、云われてみれば、なんとなく一理あるような云い分だ。そろそろ二等車で興行にでかけたいような気分になっていたからだ。

これもヤツ子に思召しのある田沼が心配して、谷を物蔭によび、

「ヤツ子さんの云い分も、もっともだ。どうだい、誇りをもとうじゃないか」

「誇りをもちたいのは山々だが、まだ契約金を受けとっていないから、フトコロの問題なんだ。キミ、たてかえてくれるかい」

「よせやい。そんな金があるぐらいなら、田舎へアルバイトにでるものですか。しかし、帰っちまうと困るから、ヤツ子さんだけ二等の切符買ってあげなさいよ」

「そうだなア。一枚だけなら買えるんだ。仕方がねえ」

谷は恨みをのんで二等を一枚買った。ところが改札になると、いつのまにやら田沼も二等の切符を握っている。