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しゃよう

斜陽

太宰 治

「新潮 第四十四巻第七号~第十号」1947(昭和22)年7月1日~1947(昭和22)年10月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 89,822 字 · 176 页

青空文庫

あすになれば、なおります」

とお母さまは、咳き込みながら小声でおっしゃったが、私には、どうも、ただのお咳ではないように思われて、あすはとにかく下の村のお医者に来てもらおうと心にきめた。

翌る朝、お熱は三十七度にさがり、お咳もあまり出なくなっていたが、それでも私は、村の先生のところへ行って、お母さまが、この頃にわかにお弱りになったこと、ゆうべからまた熱が出て、お咳も、ただの風邪のお咳と違うような気がすること等を申し上げて、御診察をお願いした。

先生は、ではのちほど伺いましょう、これは到来物でございますが、とおっしゃって応接間の隅の戸棚から梨を三つ取り出して私に下さった。そうして、お昼すこし過ぎ、白絣に夏羽織をお召しになって診察にいらした。れいの如く、ていねいに永い事、聴診や打診をなさって、それから私のほうに真正面に向き直り、

「御心配はございません。おくすりを、お飲みになれば、なおります」

とおっしゃる。

私は妙に可笑しく、笑いをこらえて、

「お注射は、いかがでしょうか」

とおたずねすると、まじめに、

「その必要は、ございませんでしょう。おかぜでございますから、しずかにしていらっしゃると、間もなくおかぜが抜けますでしょう」