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しゃよう

斜陽

太宰 治

「新潮 第四十四巻第七号~第十号」1947(昭和22)年7月1日~1947(昭和22)年10月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 89,822 字 · 176 页

青空文庫

七

くしゃみが出るくらい幸福だわ」

上原さんは、ふふ、とお笑いになって、

「でも、もう、おそいなあ。黄昏だ」

「朝ですわ」

弟の直治は、その朝に自殺していた。

七

直治の遺書。

姉さん。

だめだ。さきに行くよ。

僕は自分がなぜ生きていなければならないのか、それが全然わからないのです。

生きていたい人だけは、生きるがよい。

人間には生きる権利があると同様に、死ぬる権利もある筈です。

僕のこんな考え方は、少しも新しいものでも何でも無く、こんな当り前の、それこそプリミチヴな事を、ひとはへんにこわがって、あからさまに口に出して言わないだけなんです。

生きて行きたいひとは、どんな事をしても、必ず強く生き抜くべきであり、それは見事で、人間の栄冠とでもいうものも、きっとその辺にあるのでしょうが、しかし、死ぬことだって、罪では無いと思うんです。

僕は、僕という草は、この世の空気と陽の中に、生きにくいんです。生きて行くのに、どこか一つ欠けているんです。足りないんです。いままで、生きて来たのも、これでも、精一ぱいだったのです。

僕は高等学校へはいって、僕の育って来た階級と全くちがう階級に育って来た強くたくましい草の友人と、はじめて附き合い、その勢いに押され、負けまいとして、麻薬を用い、半狂乱になって抵抗しました。