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しゃよう

斜陽

太宰 治

「新潮 第四十四巻第七号~第十号」1947(昭和22)年7月1日~1947(昭和22)年10月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 89,822 字 · 176 页

青空文庫

八

それが、まあ、何というチャンス。姉さんがいなくて、そのかわり、頗る鈍物のダンサアが、僕の自殺の発見者になってくれる。

昨夜、ふたりでお酒を飲み、女のひとを二階の洋間に寝かせ、僕ひとりママの亡くなった下のお座敷に蒲団をひいて、そうして、このみじめな手記にとりかかりました。

姉さん。

僕には、希望の地盤が無いんです。さようなら。

結局、僕の死は、自然死です。人は、思想だけでは、死ねるものでは無いんですから。

それから、一つ、とてもてれくさいお願いがあります。ママのかたみの麻の着物。あれを姉さんが、直治が来年の夏に着るようにと縫い直して下さったでしょう。あの着物を、僕の棺にいれて下さい。僕、着たかったんです。

夜が明けて来ました。永いこと苦労をおかけしました。

さようなら。

ゆうべのお酒の酔いは、すっかり醒めています。僕は、素面で死ぬんです。

もういちど、さようなら。

姉さん。

僕は、貴族です。

八

ゆめ。

皆が、私から離れて行く。

直治の死のあと始末をして、それから一箇月間、私は冬の山荘にひとりで住んでいた。

そうして私は、あのひとに、おそらくはこれが最後の手紙を、水のような気持で、書いて差し上げた。