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しゃよう
斜陽
「新潮 第四十四巻第七号~第十号」1947(昭和22)年7月1日~1947(昭和22)年10月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 89,822 字 · 176 页
とおっしゃっる。
そうかしら? と思いながらも、溺れる者の藁にすがる気持もあって、村の先生のその診断に、私は少しほっとしたところもあった。
お医者がお帰りになってから、
「よかったわね、お母さま。ほんの少しの浸潤なんて、たいていのひとにあるものよ。お気持を丈夫にお持ちになっていさえしたら、わけなくなおってしまいますわ。ことしの夏の季候不順がいけなかったのよ。夏はきらい。かず子は、夏の花も、きらい」
お母さまはお眼をつぶりながらお笑いになり、
「夏の花の好きなひとは、夏に死ぬっていうから、私もことしの夏あたり死ぬのかと思っていたら、直治が帰って来たので、秋まで生きてしまった」
あんな直治でも、やはりお母さまの生きるたのみの柱になっているのか、と思ったら、つらかった。
「それでも、もう夏がすぎてしまったのですから、お母さまの危険期も峠を越したってわけなのね。お母さま、お庭の萩が咲いていますわ。それから、女郎花、われもこう、桔梗、かるかや、芒。お庭がすっかり秋のお庭になりましたわ。十月になったら、きっとお熱も下るでしょう」
私は、それを祈っていた。早くこの九月の、蒸暑い、謂わば残暑の季節が過ぎるといい。