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しゃよう
斜陽
「新潮 第四十四巻第七号~第十号」1947(昭和22)年7月1日~1947(昭和22)年10月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 89,822 字 · 176 页
うまいも、まずいもありゃしません」
と、のんきそうに世間話をつづけていらっしゃる。お母さまも、何気ない表情で天井を見ながら、そのお話を聞いていらっしゃる。なんでも無かったんだ、と私は、ほっとした。
「いかがでございました? この村の先生は、胸の左のほうに浸潤があるとかおっしゃっていましたけど?」
と私も急に元気が出て、三宅さまにおたずねしたら、老先生は、事もなげに、
「なに、大丈夫だ」
と軽くおっしゃる。
「まあ、よかったわね、お母さま」
と私は心から微笑して、お母さまに呼びかけ、
「大丈夫なんですって」
その時、三宅さまは籐椅子から、つと立ち上って支那間のほうへいらっしゃった。何か私に用事がありげに見えたので、私はそっとその後を追った。
老先生は支那間の壁掛の蔭に行って立ちどまって、
「バリバリ音が聞えているぞ」
とおっしゃった。
「浸潤では、ございませんの?」
「違う」
「気管支カタルでは?」
私は、もはや涙ぐんでおたずねした。
「違う」
結核! 私はそれだと思いたくなかった。肺炎や浸潤や気管支カタルだったら、必ず私の力でなおしてあげる。けれども、結核だったら、ああ、もうだめかも知れない。