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しゃよう

斜陽

太宰 治

「新潮 第四十四巻第七号~第十号」1947(昭和22)年7月1日~1947(昭和22)年10月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 89,822 字 · 176 页

青空文庫

なども無断で拝借して来て、隣りの間の私の机の上にのせて置いたら、お母さまが、朝お顔を洗いにいらした帰りに、私の机の傍を通り、ふとその三冊の本に目をとどめ、いちいちお手にとって、眺めて、それから小さい溜息をついて、そっとまた机の上に置き、淋しいお顔で私のほうをちらと見た。けれども、その眼つきは、深い悲しみに満ちていながら、決して拒否や嫌悪のそれではなかった。お母さまのお読みになる本は、ユーゴー、デゥマ父子、ミュッセ、ドオデエなどであるが、私はそのような甘美な物語の本にだって、革命のにおいがあるのを知っている。お母さまのように、天性の教養、という言葉もへんだが、そんなものをお持ちのお方は、案外なんでもなく、当然の事として革命を迎える事が出来るのかも知れない。私だって、こうして、ローザルクセンブルグの本など読んで、自分がキザったらしく思われる事もないではないが、けれどもまた、やはり私は私なりに深い興味を覚えるのだ。ここに書かれてあるのは、経済学という事になっているのだが、経済学として読むと、まことにつまらない。実に単純でわかり切った事ばかりだ。いや、或いは、私には経済学というものがまったく理解できないのかも知れない。