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しゃよう

斜陽

太宰 治

「新潮 第四十四巻第七号~第十号」1947(昭和22)年7月1日~1947(昭和22)年10月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 89,822 字 · 176 页

青空文庫

とにかく、私には、すこしも面白くない。人間というものは、ケチなもので、そうして、永遠にケチなものだという前提が無いと全く成り立たない学問で、ケチでない人にとっては、分配の問題でも何でも、まるで興味の無い事だ。それでも私はこの本を読み、べつなところで、奇妙な興奮を覚えるのだ。それは、この本の著者が、何の躊躇も無く、片端から旧来の思想を破壊して行くがむしゃらな勇気である。どのように道徳に反しても、恋するひとのところへ涼しくさっさと走り寄る人妻の姿さえ思い浮ぶ。破壊思想。破壊は、哀れで悲しくて、そうして美しいものだ。破壊して、建て直して、完成しようという夢。そうして、いったん破壊すれば、永遠に完成の日が来ないかも知れぬのに、それでも、したう恋ゆえに、破壊しなければならぬのだ。革命を起さなければならぬのだ。ローザはマルキシズムに、悲しくひたむきの恋をしている。

あれは、十二年前の冬だった。

「あなたは、更級日記の少女なのね。もう、何を言っても仕方が無い」

そう言って、私から離れて行ったお友達。あのお友達に、あの時、私はレニンの本を読まないで返したのだ。

「読んだ?」