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しゃよう

斜陽

太宰 治

「新潮 第四十四巻第七号~第十号」1947(昭和22)年7月1日~1947(昭和22)年10月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 89,822 字 · 176 页

青空文庫

いまのわれらに、重厚だの、誠実だの、そんな美徳を要求するのは、首くくりの足を引っぱるようなものだ。重厚? 誠実? ペッ、プッだ。生きて行けやしねえじゃないか。もしもだね、コンチワァを軽く言えなかったら、あとは、道が三つしか無いんだ、一つは帰農だ、一つは自殺、もう一つは女のヒモさ」

「その一つも出来やしねえ可哀想な野郎には、せめて最後の唯一の手段」

と別な紳士が、

「上原二郎にたかって、痛飲」

ギロチン、ギロチン、シュルシュルシュ、ギロチン、ギロチン、シュルシュルシュ。

「泊るところが、ねえんだろ」

と、上原さんは、低い声でひとりごとのようにおっしゃった。

「私?」

私は自身に鎌首をもたげた蛇を意識した。敵意。それにちかい感情で、私は自分のからだを固くしたのである。

「ざこ寝が出来るか。寒いぜ」

上原さんは、私の怒りに頓着なく呟く。

「無理でしょう」

とおかみさんは、口をはさみ、

「お可哀そうよ」

ちぇっ、と上原さんは舌打ちして、

「そんなら、こんなところへ来なけれあいいんだ」

私は黙っていた。このひとは、たしかに、私のあの手紙を読んだ。そうして、誰よりも私を愛している、と、私はそのひとの言葉の雰囲気から素早く察した。