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しゃよう
斜陽
「新潮 第四十四巻第七号~第十号」1947(昭和22)年7月1日~1947(昭和22)年10月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 89,822 字 · 176 页
「仕様がねえな。福井さんのとこへでも、たのんでみようかな。チエちゃん、連れて行ってくれないか。いや、女だけだと、途中が危険か。やっかいだな。かあさん、このひとのはきものを、こっそりお勝手のほうに廻して置いてくれ。僕が送りとどけて来るから」
外は深夜の気配だった。風はいくぶんおさまり、空にいっぱい星が光っていた。私たちは、ならんで歩きながら、
「私、ざこ寝でも何でも、出来ますのに」
上原さんは、眠そうな声で、
「うん」
とだけ言った。
「二人っきりに、なりたかったのでしょう。そうでしょう」
私がそう言って笑ったら、上原さんは、
「これだから、いやさ」
と口をまげて、にが笑いなさった。私は自分がとても可愛がられている事を、身にしみて意識した。
「ずいぶん、お酒を召し上りますのね。毎晩ですの?」
「そう、毎日。朝からだ」
「おいしいの? お酒が」
「まずいよ」
そう言う上原さんの声に、私はなぜだか、ぞっとした。
「お仕事は?」
「駄目です。何を書いても、ばかばかしくって、そうして、ただもう、悲しくって仕様が無いんだ。いのちの黄昏。芸術の黄昏。人類の黄昏。それも、キザだね」