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しゃよう

斜陽

太宰 治

「新潮 第四十四巻第七号~第十号」1947(昭和22)年7月1日~1947(昭和22)年10月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 89,822 字 · 176 页

青空文庫

「いや、いや、さにあらず。実はね、これは僕の奇癖でね、お酒の酔いが飽和点に達すると、たちまちこんな工合のくしゃみが出るんです。酔いのバロメーターみたいなものだね」

「恋は?」

「え?」

「どなたかございますの? 飽和点くらいにすすんでいるお方が」

「なんだ、ひやかしちゃいけない。女は、みな同じさ。ややこしくていけねえ。ギロチン、ギロチン、シュルシュルシュ、実は、ひとり、いや、半人くらいある」

「私の手紙、ごらんになって?」

「見た」

「ご返事は?」

「僕は貴族は、きらいなんだ。どうしても、どこかに、鼻持ちならない傲慢なところがある。あなたの弟の直さんも、貴族としては、大出来の男なんだが、時々、ふっと、とても附き合い切れない小生意気なところを見せる。僕は田舎の百姓の息子でね、こんな小川の傍をとおると必ず、子供のころ、故郷の小川で鮒を釣った事や、めだかを掬った事を思い出してたまらない気持になる」

暗闇の底で幽かに音立てて流れている小川に、沿った路を私たちは歩いていた。

「けれども、君たち貴族は、そんな僕たちの感傷を絶対に理解できないばかりか、軽蔑している。」

「ツルゲーネフは?」