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しゃよう
斜陽
「新潮 第四十四巻第七号~第十号」1947(昭和22)年7月1日~1947(昭和22)年10月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 89,822 字 · 176 页
陰気くさい、嘆きの溜息が四方の壁から聞えている時、自分たちだけの幸福なんてある筈は無いじゃないか。自分の幸福も光栄も、生きているうちには決して無いとわかった時、ひとは、どんな気持になるものかね。努力。そんなものは、ただ、飢餓の野獣の餌食になるだけだ。みじめな人が多すぎるよ。キザかね」
「いいえ」
「恋だけだね。おめえの手紙のお説のとおりだよ」
「そう」
私のその恋は、消えていた。
夜が明けた。
部屋が薄明るくなって、私は、傍で眠っているそのひとの寝顔をつくづく眺めた。ちかく死ぬひとのような顔をしていた。疲れはてているお顔だった。
犠牲者の顔。貴い犠牲者。
私のひと。私の虹。マイ、チャイルド。にくいひと。ずるいひと。
この世にまたと無いくらいに、とても、とても美しい顔のように思われ、恋があらたによみがえって来たようで胸がときめき、そのひとの髪を撫でながら、私のほうからキスをした。
かなしい、かなしい恋の成就。
上原さんは、眼をつぶりながら私をお抱きになって、
「ひがんでいたのさ。僕は百姓の子だから」
もうこのひとから離れまい。
「私、いま幸福よ。四方の壁から嘆きの声が聞えて来ても、私のいまの幸福感は、飽和点よ。