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しゃよう
斜陽
「新潮 第四十四巻第七号~第十号」1947(昭和22)年7月1日~1947(昭和22)年10月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 89,822 字 · 176 页
お父上がお亡くなりになって十年間、お母さまは、お父上の在世中と少しも変らない、のんきな、優しいお母さまだった。そうして、私たちも、いい気になって甘えて育って来たのだ。けれども、お母さまには、もうお金が無くなってしまった。みんな私たちのために、私と直治のために、みじんも惜しまずにお使いになってしまったのだ。そうしてもう、この永年住みなれたお家から出て行って、伊豆の小さい山荘で私とたった二人きりで、わびしい生活をはじめなければならなくなった。もしお母さまが意地悪でケチケチして、私たちを叱って、そうして、こっそりご自分だけのお金をふやす事を工夫なさるようなお方であったら、どんなに世の中が変っても、こんな、死にたくなるようなお気持におなりになる事はなかったろうに、ああ、お金が無くなるという事は、なんというおそろしい、みじめな、救いの無い地獄だろう、と生れてはじめて気がついた思いで、胸が一ぱいになり、あまり苦しくて泣きたくても泣けず、人生の厳粛とは、こんな時の感じを言うのであろうか、身動き一つ出来ない気持で、仰向に寝たまま、私は石のように凝っとしていた。
翌る日、お母さまは、やはりお顔色が悪く、なお何やらぐずぐずして、少しでも永くこのお家にいらっしゃりたい様子であったが、和田の叔父さまが見えられて、もう荷物はほとんど